『彼女たちが眠る家』原田ひ香
九州の離島に彼女たちが眠る家がある。
離島の狭い社会の中に他所から来て暮らしている者として、彼女たちは密かな生活をしている。
島の人たちの興味をひかないことが必須なのである。
彼女たちには名前が無く、虫の名前を付けてお互いを呼び合っていた。
名前が無いのではなく、お互いに名前を知らなかった。
その理由は、彼女たちには決して他人に知られたくない過去があったから。
その過去の出来事のために、祖母の葬儀にすら出席できない。
家族にも会えない。
ある日ある母娘が彼女たちの家に加わる。
そこから物語は始まり、静かだった暮らしに小さな波が立ってくる。
主人公のテントウムシは、自分のただ一つ帰ることができる場所を守るためにある決意をする。
物語と並行して、ある人が語る別の物語が進行している。
どうやら過去の物語らしい。
その物語は、名前が使われているが、誰と誰が一致するのかわからない。
テントウムシと母娘の謎が、この物語の中核を占めている。
最初は静かにゆっくりと進展し、やがて徐々にスピードがついてくる展開。
後半は次のページを早く捲りたくなる。
一気に最後まで読んだ。
これまで読んだ原田ひ香作品の中では、ちょっと異色な感じがした。
それが悪いわけじゃなく、むしろとても面白く、物語に惹き込まれた。
光文社 2019年1月20日