『ツミデミック』一穂ミチ

今月の11冊目(2024年:83冊/累計:1,908冊)

一穂ミチさんの直木賞受賞作品。
6つの短編が収録されている短編集だった。
タイトルは、「罪」と「パンデミック」による造語らしい。

「違う羽の鳥」

パンデミック初期の頃のようで、客足が減りつつある頃の飲食店の客引きをしている優斗が主人公。
そんな主人公に声をかけてきた女性が現れ、その女性には秘密があった。
初っ端からミステリアスな物語に驚くが、次の作品に更に期待が膨らむ。

「ロマンス☆」

主人公は育児中の母、百合。
夫からの風当たりがきつく、育児との間で何やら悶々としている様子。
保育園はパンデミックで休園になったりするから、夫から働けと言われてもどうしようもないと思っている。
ある日たまたまデリバリーの自転車で通り過ぎたイケメンに心惹かれる。
彼に会うためにデリバリーに嵌まる。
最後がかなり怖い。

「燐光」

主人公は幽霊の女子高生。
ずいぶん前の豪雨の日に行方不明となり、最近骨になって見つかった設定。
元高校教師と親友が自分の家に焼香に訪れるところに遭遇する。
隠された秘密が明らかになっていく。
とても悲しい物語だと思った。

「特別縁故者」

これがちょっとほっこりする物語かもしれない。
主人公はパンデミックで失業してしまった男性。
子供があるおじいさんと知り合い、古い一万円札をもらってくる。
どうやら金持ちのおじいさんらしい。
主人公は下心を持って、おじいさんに近づく。
どうしてほっこりしたかは、読んでみてのお楽しみ。

「祝福の歌」

娘は高校生で妊娠していて、その父親が主人公という設定。
主人公の母はひとりぐらし。
夜勤の仕事をしていて、時々母の様子を見に出勤途中で立ち寄る。
その母の秘密が物語の中心で、ちょっと意外な気がした。
母の部屋の隣に住む住人の不気味さが怖い。

「さざなみドライブ」

最後の物語は、最後らしい物語。
パンデミックで調子が狂った登場人物たち。
主人公は複数であり、それぞれの物語がある。
最後はあっけにとられそうな結末。
ほっとする物語かも知れない。

全編通じて、とても面白いし、それぞれがいろいろなカラーでさすが直木賞と思った。
短編だとひとつ読み終えると小休止しがちなんだけど、この本は一気に読みたくなる。
連作短編のように繋がっていないのだけど、全部一気に読みたくなってくる。

光文社 2023年11月30日

春風 裕

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